合掌。

根っからの文系だった私が高校時分に必要とされた科目といえば、英語、国語、社会くらいしかありません。今になって改めて基礎から勉強しなおす必要があるにせよ、数学や物理化学にいたっては視界にも入っていませんでした。
そのうえ文系3教科しかないうちでもさらに古文が大嫌いで、一切勉強した覚えがありません。徒然草は好きだったけど、それは唯一の例外で。たいていの教材はネチネチした人間ドラマにしか見えなくて、本気で嫌いでした。
一方で、漢文はほっといてもたくさん読みこなすくらいに好きでした。返り点打ちまくり、みたいな。よくわからないけど深遠な感じ、やや枯れた感じ、乾いた感じ、あるいは人間ではどうにもならない大きなものを描こうとしているような感じに、惹かれていたのだろうと思います。古文漢文が半分ずつの配点になっている試験で、「古文0点漢文50点で赤点回避」みたいな状態だったのを覚えています。
今にして振り返れば、私がその漢文の世界に魅了されていたのは、この人の世界観に近かったから、という気がしてなりません。元ちとせのプロデュースで脚光を浴びたとき、「おおこれはすわなちビョークで言うネリー・フーパーの立ち位置じゃね?」と無意味な類推をして今後の歩みに期待を持ってみたり、ソロライブに行ってみたら普段出かけるライブとはまったく違う客層にちょっと狼狽したり、なんだかんだで私の意識の一部になっていました。
形あるものはいずれ滅するという当然の道理を、そうはいってもちょっと厳しいなあ、と感じてしまってなりません。
勧君金屈巵   コノサカヅキヲ受ケテクレ
満酌不須辞   ドウゾナミナミツガシテオクレ
花發多風雨   ハナニアラシノタトエモアルゾ
人生足別離   「サヨナラ」ダケガ人生ダ
『勧酒』 干武陵/井伏鱒二

上田現 // ELE
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